学生時代に色々な先生に出会いましたが、好きな先生の教科ではテストで良い点数を取っていたのを覚えています。
そんな勉強を教えてくれる先生達も、わかりやすい教え方、伝え方を考え、生徒みんなに考える事の楽しさを知ってほしいという想いだったのでしょう。
大人になった今だからこそ、先生たちの想いを感じます。
今回は、編み物を楽しく知ってほしいという考えから、ユニークな動画で楽しく編み方を教えている、こけし先生にお話を伺いました。
こけし先生は、大学生の時に「塾講師」をしていたそう。その時に学んだ「わかりやすい教え方」を活用した「あみもの予備校」というyoutubeチャンネルを運営しています。
自身の経験を活かし、楽しく知ってもらいたいという想い
大学生の時に経験した塾講師という仕事を通して、学校とはまた違った楽しい教え方と出会ったというこけし先生。
楽しい教え方、わかりやすい教え方とは何かを追求し、たくさんの生徒さん達に伝えていた塾講師時代のこけし先生は、どのような教え方をしていたのでしょうか?
こけし先生:
「なんで『あみもの‟予備校”なの?』ってたまに聞かれますが、これは私のバイトの経験からです。
私自身は中高生時代、塾に通ったことはなかったんですが、大学生になったらバイトで塾講師をすることにあこがれていました。
もともと、人に教えるのが好きだったのかもしれません。
晴れて大学生になり、福岡のとある補習塾の講師になって、先生たちの授業を初めて見たときは、びっくりしました。
すっごくわかりやすくて、おもしろくて、あっという間に時間が過ぎたのに、ちゃんと覚えられている。
これまで、学校の授業しか受けたことのない私には衝撃でしたね。」
「先生方や先輩方は、よく脱線して、いろんな話をしました。
自分の専門分野だといつまでも喋る人もいるし、身近な情報に絡めて生徒の心をつかむ人も。
『覚えろよ!』の一言で片づけられがちなところを、『なぜこうなのか』理由をとうとうと話す人もいました。
そしてすべての先生に共通するのが、みんなキャラが濃いこと。
今でもあの先生、この先生、思い出すと名前や声が鮮明によみがえり、つい笑ってしまいます。
そんな中で私も講師デビューをすることになりました。
もともとキャラが濃かったのでそこには苦労しなかったのですが、試行錯誤しながら、自分らしい教え方を身に着けていきました。
そこで得た私の必殺技は、『笑い』と『リズム』。」
「人は、『喜怒哀楽を感じたとき』つまり感情が動いた時のことって忘れにくいらしいんです。
だったら、笑わせながら授業をしたら覚えやすくなるかもしれない。
だからいつも笑いを意識していましたね。
そして『リズム』。『アイ マイ ミー マイ!』などは教室でよく聞くリズムネタですよね。
私は、覚えさせるべき箇所はできる限りリズムをつけて話して、まあそれが笑いにつながるんですけど(笑)、英語も古文漢文も、歌うように学ばせていました。
まるでラッパーのように話す先生、、、生徒はどう思っていたのか一抹の不安はありますが、今もあみよびでたまに出してしまいます。」
「補習塾でしたので、勉強が苦手な生徒にもたくさん出会いました。
思ってもみなかった質問を受けることもありましたが、基本的には『わからないところはみんな同じ』。かつて私もつまづいたところで、つまづいているのです。
自分が初めて学んだときに感じた疑問って、宝物なんですよね。
『先生もこれ悩んだとよ!』なんていうと、生徒は安心していました。
今も、初めてのステッチを編むときなど、その時に感じた疑問をいちばん大切にしていますね。
ありがたいことに、4年生でバイトを卒業するころには、たくさんの生徒に恵まれました。
自分を取り戻すための編み物との時間
社会人になり忙しい日々を送っていた中で、自分を取り戻せる時間になってくれたのが編み物だったそう。
そんな素敵な編み物だからこそ、みなさんにも楽しく知ってもらいたという想いで、こだわりぬいた動画制作をされているんだとか。
こけし先生:
「社会人になり、忙しさにかまけてこういった経験をすっかり忘れてしまいました。
社会の荒波にもまれ、自分を取り戻すために再開したのが編み物でした。
一心不乱に編んでいる時間だけは、心が穏やかになることを感じていました。
その後結婚、出産し、コロナ禍の中で、編み物のyoutubeでもしてみようかなと思い立ち、タイトルは何にしよう… そこで塾のことを思い出しました。
キャラの濃い先生が、笑いいっぱいに、でも細かいところまで、理由も明らかにしながら、徹底的に教える。
変な先生だったけど、あれ、うまくできるようになっている、と思ってもらえればよい。
「編み物塾…じゃなんかレベル高い進学塾みたいだから、そうじゃない、初心者さん向けにしたい。学校の授業についていけない人も、受験失敗した人も通う、予備校ってどうだろう。
あみもの予備校。略してあみよび。よし。ゴロもいい!
こういった経緯から生まれたチャンネルだったのです。
あみよびを開始してから、いつのまにか3年半がたっていました。
あのとき2歳だった息子は6歳になり、2年前に下の子まで生まれました。
ただでさえ編み物は時間がかかるのに、デザイン、撮影、編集となると、どれだけ時間があっても足りないくらいです。」
動画制作に込められたこけし先生の想い
日々の生活の中で悩んだりする事はたくさんあるのだから、編み物は楽しんで編んでもらいたいという、こけし先生。
そんな優しい想いが、動画の中にたくさん詰め込まれているのを感じます。
こけし先生:
「やんちゃ盛りの子供らが常に話しかけてくるので、基本的に作業は夜中か朝方。
ライトを煌々と照らし、自分の手元をすべて撮ります。
アメリカ式とフランス式を撮りますが、アメリカ式の構えは独特だし、フランス式はまだ苦手で、お手本としてお見せするのも気が引けるんですけどね。(笑)
撮影はすべてiPhone。4年前からずっと頑張ってくれているiPhoneです。
ちなみに、iPhone越しに編地を見ると、平面なので距離感がつかめなくなり、すごく編みにくくなるんですよ。」
「また暗い色や赤は動画では見えにくくなることもありますから、色を選ぶときはどうしても『画面映え』第一になります。
動画の編集はすべて、iPadで行なっています。
youtuberをスモールスタートで始めようと思って買ったiPadでしたが、持ち運びもできるし、夜中に寝ている子供のそばでも編集できるので手放せません。
動画編集で、いちばん大切にしていること。それが『徹底的なわかりやすさ』です。
編み物ってやっぱり、楽しむためにやってほしいんです。
たまに『最近編み物がしんどいんですけど…』というコメントをいただきますが、そういう時は休んでください。楽しくなくちゃ、編み物じゃないですからね。」
「私は極力、編み物でつまづいたり悩んだりしないでほしいと思っています。
人生、ほかに悩むことたくさんあるでしょうから。(笑)
だからこそ、この動画1本を見ただけで何も悩まずに完成できるようにしたい。
そのために、細部に至るまで台本を作っています。
伝えたい情報を無駄なく、漏れなく伝え、受け取る人が理解しやすい表現にするためには、どうしても時間をかけて文章を練る必要があるからです。
手を見せているので『ここをこうして』と言いたくなるのですが、ぐっと我慢して、『右針を左針の裏側から通して』など、具体的に言葉にして伝えるようにしています。こうすると、動画を見てもわからないときに理解の助けになるかもしれない。言葉選びが本当に難しいです。
とういわけでかなり長々と喋るときがありますが、ああ見えて時間をかけて考え抜いているんですよ。
これをいうのも恥ずかしいんですが、『ここで叫ぶ』とかも台本に書いていたりします。(笑)」
「『全字幕』も分かりやすさのために初回から貫いていることですが、これ、本当に大変なんですよ。
ひとことずつ入力して、フォントを変えて…そして自分の声に合わせ、動画と字幕を編集します。これまた大変。
話す速さと動画の動きの調整は1秒以下の世界です。
0コンマ1秒の間を入れるかどうかで、聞き取りやすさ、理解しやすさが断然変わることもあるんです。
ここまで丁寧にやるより、スピード重視でたくさん動画を発表した方がいいのかな…悩ましいところです。
私の声がどうしても苦手という方もいるでしょうし、そんな人もミュートで見れるように、どれだけ手間でも全字幕は外せないですね。」
私らしい作品作り、私らしい動画制作をしたい
大好きな趣味だった編み物をお仕事にして活躍している、こけし先生。
素敵なデザインや、楽しんでもらえる動画を作りたいという想いは、まだまだ続きます。
こけし先生が目指す動画制作は、今後どのようなものになっていくのでしょう?
こけし先生:
「編むのが好きなのはショールなのですが、デザインするのが好きなのはカウルです。
カウルは、輪編みで表面だけを見ながらぐるぐる編めますし、ちょっとくらいサイズが大きくなっても小さくなっても問題ないから、初心者さんにピッタリなんです。
デザインするときに考えていることは、初心者さんでも簡単なのに、ちょっと凝って見える、難しそうに見えるものを目指しています。
さら編み手が編んでいて楽しいかも気にしていますね。
となると、やはり、すべり目や引き上げ目など、面白いステッチをメインとしたデザインをすることが多いです。」
「ステッチのパターンは星の数ほどあります。
海外のステッチは、見ただけではどうやって編んでいるか想像がつかないものも。
そういうものも、英語を読み解いて皆さんに紹介したりしていますよ。
ステッチは、面倒と楽しいが紙一重なので、いい塩梅をいつも探っています。
ステッチ、すごく好きです。
だからなんですけど、私のデザインはまだステッチ頼みだったり、流行り物の追っかけだなあと感じることがあります。
三國さんのニットって、見ただけで『三國さんの作品だ』ってわかりませんか?
まだまだ先になるかもしれませんが、いずれ、私もそういう、『自分だけの色』を出せればなぁと思っています。」
「趣味だった編み物が、いつのまにか仕事になっていました。
編み物を仕事にするなんて、編み物が嫌いになってしまうのでは…と思いましたが、
やっぱり今も編み物が大好きです。
『編まなきゃいけない』というタスクはありますが、ひとたび編み出すと夢中になっています。
自分のことを先生なんて偉そうに言っていますが、まだまだ経験が足りないんです。
もっとたくさん編んでいたら、もっとわかりやすく伝えられるのではないか、もっといいものをデザインできるのではないかと思います。
でも、未熟ながらも、あみよびを初めて、やっとこの世界に貢献できるものを見つけられたような気がしています。
これからもプロ意識をもって、皆さんのためになる動画を作っていければなと思います。」
(おわり)